◎花粉症の症状と治療
スギなどの花粉を原因とする、季節性アレルギー性鼻炎(いわゆる花粉症)の診療では、
患者の病態が「くしゃみ・鼻汁型」か「鼻閉型」かを診断した上で、治療方針が決定されます。
これは、くしゃみ、鼻汁と鼻閉とで、症状出現の機序が異なるためです。
くしゃみと鼻汁の症状にはヒスタミン(化学伝達物質)が関与しています。
花粉刺激に反応して鼻粘膜で放出される化学伝達物質のうち、ヒスタミンは、
鼻粘膜の三叉神経終末にあるヒスタミンH1レセプターに結合します。
その刺激が三叉神経を介して脳幹のくしゃみ中枢に送られ、
そこから迷走神経を介して呼吸筋に刺激が伝達され、くしゃみが起こります。
鼻汁も同様で、三叉神経からの刺激が分泌中枢に達した後、
アセチルコリン等が伝達物質となって鼻分泌線などが刺激され、鼻汁が分泌されます。
一方の鼻閉は、ヒスタミンではなく、主に好酸球から産生されるロイコトリエン等の
化学伝達物質が、鼻粘膜血管に直接作用して起こります。
具体的には、これら化学伝達物質が、鼻粘膜血管をうっ血させたり、
血管の透過性を亢進させて浮腫を起こすことで、粘膜が腫脹し鼻腔が閉塞するのです。
このような発症機序の違いがあるため、くしゃみ・鼻汁型には、
主に抗ヒスタミン作用のある薬剤が使用され、
一方の鼻閉型の治療では、ロイコトリエン受容体拮抗剤やトロンボキサンA2受容体拮抗剤、
およびこれらの遊離を抑制する作用を持つ抗アレルギー剤が中心となります。
もっとも、くしゃみ、鼻汁、鼻閉のすべての症状を有する花粉症患者も少なくありません。
そのような場合には、複数の薬剤が併用されたり、
抗ヒスタミン作用を有する抗アレルギー剤が処方されることになります。
◎花粉症
*「花粉症」は、花粉が原因で起こるアレルギー疾患です。
花粉が原因で起こるアレルギー性鼻炎を「花粉症」といいます。
アレルギー性鼻炎は、発作性、反復性のくしゃみ、鼻水、鼻づまりを3主徴とします。
花粉症の患者さんは、アレルギー性結膜炎を合併している場合が多く見られます。
花粉症は、花粉が飛散する季節に発症することが特徴であり、
空気中を浮遊している花粉が鼻や眼の粘膜に接触することによって様々な症状が起こります。
花粉症の原因となる植物はたくさんありますが、日本で最も多いのは「スギ花粉症」です。
*花粉症の患者さんは増加しています。
花粉症は、ほんの20年ほど前まであまり知られていませんでしたが、
花粉症の患者さんは年々増加しており、今や全人口の10〜15%、
つまり10人に1人が花粉症に悩まされています。
とくに都市部では5人に1人と多く見られる現状があります。
・花粉症が増加している主な理由
1)飛散するスギ花粉の量が増加
スギは樹齢30年以上になると花粉をたくさん作るようになります。
戦後、植林したスギ林が樹齢30年以上になっており、花粉の生産力が強くなっています。
又、花粉が育ちやすい猛暑が繰り返し続いていることからここ数年、スギ花粉の量が増加しています。
2)住環境変化によるダニの増加
住宅が機密性の高い建築様式になり、アレルギーの原因となるダニが増加したことも
アレルギー性鼻炎の患者さんが増加した原因の一つと考えられています。
3)大気汚染の影響
大気汚染の主因であるディーゼル車の排気ガスに含まれる微粒子が、
スギ花粉と一緒に体内に吸い込まれるとスギ花粉単独で体内に入り込むよりも
アレルギー反応を起こしやすくなります。
車の交通量が多い都市部での花粉症の有病率が、地域によっては20%を越えることと
無関係ではないようです。
*花粉症の初期症状は?
花粉症の初期症状は風邪とよく似ています。
鼻水やくしゃみが1〜2週間続いているにもかかわらず、発熱やのどの痛みなどがない場合は
花粉症の疑いが濃厚です。
風邪との大きな違いは花粉症になると目がかゆくなることです。
*アレルギー性鼻炎の分類
花粉症は花粉が飛ぶ季節に鼻炎症状が現れることから「季節性アレルギー性鼻炎」に分類されます。
しかし花粉が飛ばない季節なのに同じような症状が出る人もいます。
季節に関係なく鼻炎症状が現れるものを「通年性アレルギー性鼻炎」といいます。
2001年2月
今回は海外に薬を携行する場合の注意点についてのおはなしです
我が国で睡眠薬として一般的に処方されるフルニトラゼパム(商品名:ロヒプノール、サイレース)は、
米国に持ち込むことが出来ません。
米国政府は、催眠作用が強く、悪用される可能性があるとして、1996年に同剤を
LSDやヘロインなどと同じ厳しい管理基準下に置き、米国内への持ち込みを一切禁止したのです。
これを携行していても、逮捕されることはありませんが、入国審査で没収されてしまうことがあります。
一方、東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国など熱帯、亜熱帯地域に行く場合には、
解熱鎮痛剤としてバファリンなどのアスピリン製剤を携行することは適当ではありません。
アスピリンには、抗血小板作用があるため、ウイルス性出血熱の患者が服用すると、
出血症状を悪化させる可能性があるからです。
ウイルス性出血熱の中で、近年その感染者数の増加が国際的に問題となっているのが
「テング出血熱」です。蚊が媒介するテングウイルスに感染すると、まずテング熱を発症し、
これが悪化すると出血症状を伴うテング出血熱に至ります。
テングウイルスは現在まで、ほぼ全世界の熱帯、亜熱帯地域で感染が確認されています。
インスリン注射療法を行っている患者さんは、海外旅行など長時間を過ごす行き帰りの飛行機内や、
現地での食事など、平常時と異なる生活パターンを考慮する必要があります。
旅行中のインスリン注射のタイミングに関しては、インスリン製剤の種類や投与回数などによって対応が異なるため、
まず主治医と相談して旅行中の注射スケジュールを作成する必要があります。
その際、医師がスムーズに対応できるように、旅行日程や時差などを事前に調べてから相談すると良いでしょう。
旅行中の具体的な注意点としては、
1.英文の患者手帳や診断書を持参する
2.気流の関係等で機内での食事が予定より遅れた場合に備え、軽い食事を持参する。
3.盗難や紛失に備えて、インスリン製剤は必ず2カ所以上に分けて保管する。
4.海外の多くの国では、日本と異なる種類のインスリン製剤や注射針が使用されているため、
現地で買い足すことを考えないで十分な量を準備しておく。
このほか、慢性疾患の人が大量に薬剤を持ち込む場合などに、入国審査官が問題にするケースがあります。
この際、無用のトラブルを防ぐためには、薬剤の商品名と一般名、
簡単な説明文を英語で記載した医師の署名入りの書類を用意しておき、必要に応じて入国審査官に提示するとよいでしょう。
亜鉛(Zn)はヒトの生命を維持するために必須な微量元素の一つです。
生体内において数多くの酵素の、活性中心として働いており、
細胞分裂、核酸代謝、酵素の補因子などとして細胞の機能維持に重要な役割を果たしています。
ですから食物から日々補充することが大切なのです。
*亜鉛の欠乏又は過剰により生じる問題
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成長遅滞、皮膚障害、味覚・嗅覚障害
欠乏時 性機能障害、脱毛症、妊娠異常
免疫力低下、癌増加など
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過剰時 銅・鉄の吸収阻害、胃腸障害、血清脂質への影響
発熱など
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*亜鉛の1日所要量
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年令 所要量(mg) 許容上限摂取量
男 女
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0〜 1.2 −
6ヶ月〜 4 −
1〜2 5 −
3〜5 6 −
6〜8 6 6 −
9〜11 7 7 −
12〜14 8 8 −
15〜17 10 9 −
18〜29 11 9 30
30〜49 12 10 30
50〜69 11 10 30
70以上 10 3 −
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妊婦 +3 30
授乳婦 +3 30
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・人工乳の場合は3mg/day
*亜鉛を含有する食品
亜鉛は様々な食品中に広く分布しており、植物では発育中の葉など代謝が
活発な部分に、
動物では筋肉、造血組織、肝臓などを含む部分に比較的
多く含まれる。
*可食部100g当たり亜鉛含有量(μg)
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食品名 亜鉛(μg)
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こめ(玄米) 1800
穀類 こめ(精白米) 1500
こむぎ(小麦胚芽) 15000
そば(そば粉) 2400
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いも類 さつまいも(生) 180
じゃがいも(生) 230
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ごま(乾) 7100
種実類 アーモンド(いり味付け) 4800
カシューナッツ(〃) 5400
落花生(〃) 3000
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そら豆(乾) 4600
豆類 えんどう(乾) 4100
だいず(国産乾) 3200
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うるめいわし(生) 1300
うなぎ(生) 1900
魚介類 かき(生) 40000
ほたてがい(生) 2500
たらこ(生) 3900
たらばがに(ゆで) 4700
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うし(もも、脂身なし(和牛)) 4500
うし(肝臓) 3800
獣鳥鯨肉類 ぶた(そともも脂身なし大型種) 2900
ぶた(肝臓) 6900
にわとり(もも皮付き成鶏) 1700
〃 (肝臓) 3300
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卵類 鶏卵(全卵生) 1400
〃(卵黄生) 3900
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えだまめ(未熟豆・生) 2000
野菜類 しそ(葉) 1200
パセリ(〃) 1100
ブロッコリー(生) 1100
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ココア(ピュアココア) 7000
その他 茶(抹茶) 6300
チョコレート(ミルク) 1500
酵母(乾燥) 15000
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*亜鉛を含有する健康食品等
健康食品、栄養補助食品のなかにも、亜鉛を含有するものがあります。
亜鉛をはじめ複数のミネラル類を配合した製品や、亜鉛含有量が
比較的多い食品を原料とした商品などです。下記にその1例を示します。
▲ソルティア(ベンファクト・コーポレーション)直販あり
・ヒバマタ(海藻)が原料
・1日1粒が目安
・1粒当たり亜鉛16.4mg含有
▲亜鉛+セレン粒(マンナンフーズ)
・酵母などが原料
・1日4粒が目安
・4粒当たり亜鉛4mg含有
・セレンも含有
▲必須ミネラル(アサヒビール薬品)
・海藻、大豆、大麦などが原料
・1日1粒が目安
・1粒当たり亜鉛5mg含有
・セレン・マンガン・銅なども含有
▲ラピス・マルチビタミン(常磐薬品)
・大麦、大豆などが原料
・1日6粒が目安
・6粒当たり亜鉛9mg含有
・カルシウム・マグネシウム・鉄なども含有
▲スーパービール酵母(アサヒビール薬品)
〃 Z( 〃 )
・ビール酵母が主原料
・1日15粒が目安
・15粒あたり
スーパービール酵母 は亜鉛0.35mg含有
スーパービール酵母Zは亜鉛4mg含有
・クロム、セレンなども含有
▲ディノ・バランス(常磐薬品)
・かきが原料
・1日6〜12粒が目安
・6粒当たり亜鉛0.384mg含有
・グリコーゲンなども含有
▲カキエキス(マンナンフーズ)
・かきが主原料
・1日6粒が目安
・6粒当たり亜鉛0.58mg含有
・グリコーゲンなども含有
感染症によって生じる発熱は、生体防御反応の一つと考えられています。
多くの微生物は、増殖の至適温度範囲が比較的狭いため、体温の上昇は微生物の増殖を妨げる方向に働きます。
又、体温上昇時には抗体産生が亢進するので、免疫能を高める効果があります。
したがって、感染によって生じた発熱が体の防御機構であることを考えると、
感染症にかかっている時に解熱剤等で熱を下げてしまうことは、適切な治療とは言えません。
とはいえ、一方で体温が1℃上昇するごとにエネルギーの消耗が約13%増えるとも言われており、
解熱には体力の消耗を防ぐというメリットがあります。
免疫力の維持や損傷を受けた組織の回復にはエネルギーが必要であり、
エネルギーの消耗・不足は他の感染症を合併する原因にもなります。
つまり、解熱剤の投与は、解熱することのメリットとデメリット、
薬剤による副作用などを勘案し、
慎重に行うという姿勢が必要と言えます。
小児に解熱剤を使用する場合には、比較的安全性の高いアセトアミノフェンかイブプロフェンを使用するというのが、
現在の世界的な共通認識になっています。
特に使用すべきでないのは、ライ症候群の発症に因果関係が認められているアスピリンなどのサリチル酸系薬剤と、
インフルエンザ脳症による死亡率を上昇させる懸念のあるジクロフェナックナトリウム、メフェナム酸です。
又、解熱剤の投与は漫然と行うのではなく、38〜38.5℃以上の熱があり、
体がつらそうな場合だけ頓用で使用し、投与間隔は6時間以上あけるといったことが必要なのです。
漢方医学は、今から2千年以上前に中国で誕生し、脈々と育まれてきました。
漢方にとって、食物と薬物とは不可欠な物でした。
古代の人々は飢えを満たすために食べられるものは何でも食べ、食物が人間にもたらす作用を学び
長い期間をかけて医学体系の基礎が作られていったと考えられます。
紀元前400年ごろ(春秋戦国時代)になると医学がさらに発展し、
食医、疾医、瘍医、獣医の四科制度が出来ました。
疾医は内科、瘍医は外科を専門とする医師で、食医は文字通り飲食栄養面の専門家でした。
四科の中でも食医が最上位の医師として厚遇されていたと伝えられています。
このことからも、食が生命を養うために欠かせないものという漢方の基礎思想を読み取ることが出来ます。
「(五穀、五蓄、五果、五葉を用いて)飢えを満たすときは食であり、病を療するときは薬なり」
とする薬食同源の考えは、このころから生まれたと言っていいでしょう。
ちなみに、現在の日本では薬食同源より、医食同源のほうがポピュラーに使われていますが、
この言葉は薬食同源の考えを発展的に解釈した日本人医師が作った造語と言われています。
漢方では体内のバランスがくずれたときに病が起こると考えていますが、食においてもバランスを重視します。
こうした漢方の視点から現代人の食生活を見てみると、不足しているものと、とり過ぎているものとがあることがわかります。
とり過ぎている物の代表が水分です。
「<そんなに水分を取っていない」という人がいますが、よく話を聞いてみると、
のどが渇いていなくても、習慣的にお茶を飲んでいたり、]
夜になるとビールや水割りを口にする、というケースが少なくありません。
とり過ぎた物は出さなければいけないわけですが、雨の多い多湿の日本の気候では、
水分は代謝されないで、体の中に溜まってしまいがちになります。
こうして体内に残った汚れた水分が病気の引き金になるのです。
水分の補給は、のどの渇いた時だけにするだけで、体の調子は良くなります。
一方、日本人に不足している物としては、香辛料や香りのいい野菜があります。
香味野菜は総じて体を温めて胃腸の働きをよくします。
皮膚からの発散を促進し、余分な水分を排出する作用もありますので、
率先して食べることをおすすめします。
◎薬物乱用フェナセチンがなくなる
一世紀の長きにわたり活躍したフェナセチンがなくなりました。
長期に大量を使用した場合の副作用については、すでに昭和57年から注意を呼びかけられ、
OTC市場はいち早く商品の撤退を行い、消費者の安全を確保しました。
そのとき医療用については、長期使用を行わない旨にとどめ、
あとは医療関係者の専門的技能と職業倫理にまかされたのです。
あれから19年、これまでに重い腎障害や腎盂・膀胱がんなど21例が報告され、
そのうち1名が死亡。特に昨年11月以降、重篤な腎障害が5例と相次ぎ、
慢性腎不全を発現した患者の平均服用期間は12.7年、推定総服用量は4.73Kgでした。
患者のフェナセチン乱用を、防止できなかったのは、
医師と薬剤師の機能がしなかったからに他なにません。
供給停止を告げるメーカー文書の中に、あえて「濫用対策のため」とあるのは、
医療現場に対するせめてもの皮肉でしょうか...。